著者:京極 真
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本記事では「学会発表の抄録を書くコツを知りたいです。限られた文字数で、何をどのように書けばよいですか?」という疑問にお答えします。
研究や大学院生の研究指導、アカデミックライティング本の執筆などに取り組んできた経験をもとに、抄録を書くコツについてサクッと解説します。
結論からいうと、良い抄録を書くコツは、研究の論理を限られた文字数でクリアに再現することです。
抄録は、研究でやったことを小さな文字で全部詰め込む場所ではありません。
読み手が抄録だけを読んでも、
なぜこの研究が必要なのか → 何を明らかにしたのか → どう調べたのか → 何がわかったのか → そこから何がいえるのか
が一気に理解できるように書きます。
これが基本です。
抄録を書きはじめる前に、必ず投稿する学会の演題募集要項を読みましょう。
ここは意外と重要です。
文字数、見出し、倫理に関する記載、キーワードなどのルールは学会によって異なります。
さらに、審査基準が公開されている学会なら、それも先に読みます。
なぜなら、審査者が何を見るのかわかっているのに、それを見ずに抄録を書く理由はないからです。
例えば、序論、目的、方法、結果、考察が審査されるなら、そのすべてについて審査者が判断できる情報を書きます。
良い文章を書くというよりも、良い研究であることを正確に判断できる文章を書くと考えるとよいです。
抄録は字数制限が厳しいです。
なので、すべての項目を同じ分量で書く必要はありません。
ぼくなら、序論と目的はできるだけ短くし、方法と結果にしっかり文字数を使います。
特に重要なのは結果なので、分量は結果>方法かな。
抄録を読んだ人がいちばん知りたいのは、「で、何がわかったの?」だからです。
書き慣れない人は、序論が長くなりすぎる傾向があります。
序論で必要なのは基本的に、
すでに何がわかっているか → 何がまだわかっていないか → だからこの研究が必要である
という流れです。
研究テーマについて知っていることを全部説明する必要はありません。
目的につながらない説明は、思い切って削ってよいです。
目的は、具体的に明瞭にはっきり書きます。
基本的には1文でよいです。
「本研究の目的は、○○を明らかにすることである」
ぐらい明瞭でかまいません。
目的が何行も続く場合は、研究で何を明らかにしたいのか整理できていない可能性があります。
方法は、読み手が「その方法で目的に答えられるのか」を判断できるように書きます。
研究デザイン、対象、データ収集、主要な評価や分析方法など、研究結果を解釈するために必要な情報を優先します。
量的研究なら、対象者、研究デザイン、主要評価項目、統計解析などが重要になります。
質的研究なら、対象者、データ収集方法、分析方法などが重要になります。
もちろん、人を対象とする研究では、必要な倫理的手続きについても投稿規定にそって記載します。
ポイントは、方法を全部書くことではありません。
結果がどのように導かれたのか判断するために必要な方法を書くことです。
結果は、できるだけ具体的に書きます。
ここはものすごく重要です。
よくない例は、「介入後に改善が認められた」のような感じで、簡単に書きすぎただけで終わることです。
何が、どの程度、どう変化したのかがわかりません。
量的研究であれば、可能な範囲で具体的な数値を示します。
質的研究であれば、「いくつかのテーマが得られた」だけではなく、実際にどのようなテーマやカテゴリーが得られたのかを示します。
つまり、「結果が出ました」と説明するのではなく、結果そのものを書くわけです。
そしてもう一つ大切なのは、目的に対応した結果だけを書くことです。
目的に書いていないことを結果で突然出してはいけません。
考察は端的にスパッと書きましょう。
ここで大切なのは、結果からいえることと、いえないことを区別することです。
書き慣れない人ほど、結果よりも大きなことを考察で言いたくなります。
けど、それをやると論理の飛躍が目立ちます。
まず、今回の結果から何がわかったのかを書きます。
そのうえで必要なら、その結果にはどんな意味があるのかを示します。
抄録では、壮大な議論を展開する必要はありません。
結果より一歩だけ前に出る。二歩も三歩も飛ばない。
このぐらいの感覚でちょうどよいです。
研究で一番伝えたいことが的確に伝わるように、とにかくクリアに書くこと。
ほんと、これにつきます。
ただし、「クリアに書く」とは、文章を簡単にするだけではありません。
研究の論理関係をクリアにするということです。
つまり、背景 → 目的 → 方法 → 結果 → 考察が一本の線でつながっている必要があります。
目的でAを調べると書いたなら、方法でAを調べる方法を書き、結果でAについて示し、考察でAの結果から何がいえるのかを論じます。
この対応関係が崩れると、文章そのものは読みやすくても、抄録としてはわかりにくくなります。
臨床や研究でいろいろやってきたことを、いっぱい詰め込みたくなるんです。
気持ちはよくわかります。
でも、それをやっちゃうとダメなんです。
抄録は文字数が限られています。
なので、重要なのは「何を書くか」だけではありません。
何を書かないかを決めることも重要です。
研究の中心的な問いに関係しない情報は、たとえ面白くても削ります。
一つの抄録で伝えたい中心的なメッセージは、できるだけ一つに絞ったほうがよいです。
ここはけっこう重要なコツです。
抄録を上から順番に書く必要はありません。
ぼくなら、次の順番で考えます。
抄録を書く順番
1. 目的
2. 結果
3. 考察
4. 方法
5. 序論
6. タイトル
まず「何を明らかにした研究なのか」を決めます。
次に、「その問いに対して何がわかったのか」を結果として書きます。
そして、その結果から何がいえるのかを書く。
ここまで決まると、その結果をどのような方法で得たのかを書けます。
最後に、「なぜこの研究をする必要があったのか」を必要最小限の序論として書き
ます。
この順番にすると、序論を長々と書いた後で字数が足りなくなり、肝心の結果を削るという事故を避けやすくなります。
抄録を書き終えたら、文章を読むだけではなく、**各項目の対応関係**をチェックしてください。
【目的と結果は対応しているか】
目的に書いた問いの答えが、結果にありますか。
ないなら、その抄録はまだ完成していません。
【方法と結果は対応しているか】
結果に出てくるデータが、どのように得られたのか方法からわかりますか。
結果に突然知らない評価指標や分析結果が出てくるなら、方法の説明が不足しています。
【結果と考察は対応しているか】
考察で述べていることを、結果が支えていますか。
結果にないことを考察で主張しているなら、削るか表現を弱めます。
この3つを確認するだけでも、抄録はかなり良くなります。
実際に抄録を登録する前に、以下の点をチェックするとよいです。
抄録登録前のチェック
投稿規定を満たしているか
研究の重要性や必要性がわかるか
目的は具体的で明瞭か
方法は目的に適しているか
対象と方法は、結果を理解するために十分具体的か
必要な倫理的手続きが記載されているか
結果には具体的なデータが示されているか
結果は目的に答えているか
考察は結果から導ける範囲にとどまっているか
背景→目的→方法→結果→考察が一本につながっているか
曖昧な表現はないか
なくても意味が変わらない文章を削ったか
の研究でいちばん伝えたいことが、一読してわかるか
最後のチェックは特に重要です。
読み終わった人が、「結局、この研究で何がわかったの?」と聞いてきそうなら、まだ改善できます。
身も蓋もないことをいえば、書いて、フィードバックを受けて、また書くことは必要です。
けど、ただ回数をこなすだけでは不十分です。
重要なのは、なぜ修正されたのかを理解することです。
例えば、指導者から序論を半分に削られたとします。
そこで、「削られたから短くする」だけではもったいないです。
「なぜこの文章は不要だったのか」「この文章を削っても研究目的が伝わるのはなぜか」まで考えます。
そうすると、次の抄録では最初から不要な文章を書かなくなります。
クリアに書けるようになるためには、自分が書いた文章の問題点に気づけることが大切です。
そのためには、指導者が「どこを直したか」だけでなく、何を基準に直したのかを見るとよいです。
さらに、投稿先の審査基準や研究デザインに対応した報告ガイドラインと照らし合わせます。
そうすると、文章の良し悪しを「なんとなく」で判断しなくてよくなります。
クリアに書くためには、どういう文章がクリアなのかを知っておく必要があります。
書き手のうちに良質な文章をストックする必要があるわけです。
ただし、読むだけでは書けるようにはなりません。
良い抄録を読み、自分で書き、比較し、直す。
これを繰り返します。
一定数こなしていると、だいぶ良くなります。
本記事では、「抄録を書くコツ」について紹介しました。
大切なのは、情報をたくさん詰め込むことではありません。
研究の論理を限られた文字数でクリアに再現することです。
そのためには、背景 → 目的 → 方法 → 結果 → 考察を一本につなげます。
そして、特に意識したいのは以下です。
序論は必要最小限にする
目的は明瞭にする
方法は結果を判断するために必要な情報を書く
結果は具体的なデータを書く
考察は結果からいえる範囲にとどめる
一つの抄録で伝えたいことを絞る
各項目の対応関係をチェックする
抄録は短いです。
短いから簡単なのではなく、短いからこそ研究そのものを理解していないと書けません。
逆にいえば、良い抄録が書けるということは、自分の研究について「何が重要で、何が重要ではないか」を区別できているということです。
まずはそこを目指して、クリアな抄録を作っていきましょう。
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