IMRaDによる研究論文の「考察」セクションの書き方のヒント


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IMRaDによる研究論文の「考察」セクションの書き方のヒント

 研究論文は、学術的な知識や情報を発信するための重要な手段です。しかし、研究論文を書くことは容易ではありません。特に、「考察」セクションは多くの人が苦手とする部分です。そこで本記事では、「考察」セクションの効果的な書き方についてStep by Stepで説明することによって書き方のヒントを示します。


 「考察」セクションとは何でしょうか?「考察」セクションとは、研究論文のフォーマットであるIMRaD(Introduction, Methods, Results, and Discussion) の最後に位置する部分です。ここでは、研究で明らかになった主な新知見を提示し、それらを研究で設定した目的や背景と関連付けて解釈したうえで、将来の研究や実践に与える影響を論じます。また、研究の長所と限界についても論じます。


 なぜ「考察」セクションが重要なのでしょうか?「考察」セクションは、研究の結果が何を意味するのか、どのように貢献するのかを明らかにすることで、読者に研究の価値や意義を伝える場です。また、「考察」セクションは、研究の強みや弱みを客観的に評価し、今後の方向性を示すことで、読者に研究の信頼性や有用性を伝える場でもあります。


 しかし、「考察」セクションは書き方が難しいと感じる人も多いでしょう。どこから書き始めればいいのかわからない、何を書けばいいのかわからない、どう書けばいいのかわからないという悩みを抱える人は少なくありません。そこで本記事では、「考察」セクションの書き方のヒントを解説します。大学院生や研究論文を書いたことがない臨床家などの初学者向けに、順を追ってわかりやすく解説しています。


 なお、IMRaDを使った「考察」セクションの書き方を詳しく知りたい方は、私の以下の連載論文もお読みください。

  • 京極真:IMRaDと効率的な執筆順.作業療法ジャーナル 56(12), 1264-1268, 2022
  • 京極真:IMRaDを使った「考察」の書き方のコツ.作業療法ジャーナル(2023年1月13日現在、印刷中)

 また、IMRaDフォーマットを理解したい方は以下の関連記事をお読みください。

なぜ研究論文のIMRaD「考察」セクションが重要なのか?

 IMRaDの「考察」セクションは、結果に対する「だから何?」という疑問に答える場であるがゆえに、研究論文の重要な構成要素です。読者は考察を読むことによって、研究の結果が持つ意味や意義をよりよく理解することができます。また、研究のもつ利点や欠点も踏まえたうえで、これからの方向性についても示すことができます。


 「考察」セクションは研究論文の印象を左右します。十分よく書かれた「考察」セクションは、新しい知見を明確に主張し、それを過去の重要な知見に関連づけながら、その重要性を明確に伝えることができます。他方、不十分な「考察」セクションは、何が新しい発見なのかがわかりにくく、その重要性も不明瞭なものになってしまいます。したがって、研究者は「考察」セクションを書くときは、よく練られたものにするべきです。


 以下では、大学院生などの初学者向けに、「考察」セクションの書き方のヒントを解説します。ご自身の考察の執筆にお役立てください。

IMRaDの「考察」セクションの書き方のヒント

 実際に書く前に、①学術誌の決定、②報告ガイドラインの入手、③研究論文の確認が必要です。本記事は既にそれらを行ったと仮定して書き方のヒントを解説します。

ステップ1:主な結果を説明する

 「考察」セクションは、まず最初に研究で得られた主な結果 を要約することから始めましょう。ここでは、「結果」セクションで報告したデータや統計量 をそのまま再提示するだけではなく、それらが示す新知見 や発見 を言語化して述べます。このようにすることで、「考察」セクション全体の文脈 を整理したうえで、読者に研究の要点 を強調することができます。


 例えば、「結果」セクションで「本研究では、高齢者の認知機能に対する◎◎療法の効果を検討した。◎◎療法群と対照群の間で、MMSEのスコアに有意な差が認められた(t(38) = 2.34, p < .05)。◎◎療法群は対照群よりもMMSEのスコアが平均で3.2点高かった」と報告した場合、主な結果に対する考察する文章は以下のように書けるかもしれない。

  • 本研究では、◎◎療法が高齢者の認知機能を改善することを示した。◎療法を受けた高齢者は、音楽療法を受けなかった高齢者よりも、認知機能の評価尺度であるMMSEのスコアが有意に高くなった。これは、作業療法が高齢者の記憶力や注意力などの認知能力に良い影響を与えることを意味する」

ステップ2:結果を解釈する

 次に、上述した結果の意味について、過去の重要な知見と関連付けながら論じます。ここでは、今回の結果が他の研究の結果と比較すると、どんな共通点や矛盾点があるのかを論じます。また、当該領域において、結果は何を意味するのかを論じます。予想外の結果がある場合も考察で説明します。


 例えば、「本研究では、作業療法が高齢者の認知機能を改善することを示した」という結果を解釈する文章は以下のように書けるかもしれない。

  • 本研究で得られた結果は、過去の研究と一致している。例えば、○○ら(2019) や△△ら(2020) も、◎◎療法が高齢者の認知機能に有益であることを報告している。これらの研究では、◎◎療法が高齢者の脳活動や神経伝達物質などに影響を与えることで、認知能力を向上させる可能性があることを示唆している。本研究では、そのような神経学的なメカニズムは検討していないが、◎◎療法が高齢者の認知機能に及ぼす効果があることを実証した。
  • 一方で、本研究で得られた結果は、一部の研究とは異なっている。例えば、××ら(2018) や□□ら(2021) は、◎◎療法が高齢者の認知機能に有意な影響を与えないことを報告している。これらの研究では、◎◎療法の種類や頻度や期間などが本研究と異なっていた可能性がある。また、◎◎療法の効果は個人差や気分や環境などにも左右される可能性がある。したがって、◎◎療法の効果を正確に評価するためには、より多くの要因を考慮する必要があると考えられる。

ステップ3:長所と限界を論じる

 さらに、「考察」セクションでは、今回の研究の長所と限界を論じることも重要です。長所は、今回の結果が既存の知見にどのように貢献するのかを論じたり、結果の頑健性や一般化可能性を論じたりすることを含みます。限界は、今回の研究の制限が、結果の確からしさに与える影響について検討するとよいです。


 例えば、「本研究では、◎◎療法が高齢者の認知機能を改善することを示した」という結果の長所と限界を論じる文章は以下のように書けるかもしれない。

  • 本研究の長所は、◎◎療法が高齢者の認知機能に有益であることをMMSEで測定し、その効果を定量的に評価したことである。これにより、◎◎療法が高齢者の認知機能に及ぼす影響を科学的に検証することができた。また、本研究では、◎◎療法の種類や頻度や期間などを統一し、対照群と比較することで、◎◎療法の効果をより正確に把握することができた。
  • 一方で、本研究の限界は、◎◎療法の効果が個人差や気分や環境などにも依存する可能性があることである。本研究では、高齢者の個人的な好みや感情や生活背景などは考慮していない。また、◎◎療法の効果が持続するかどうかや、他の認知機能向上策と比較した場合の効果は不明である。したがって、本研究の結果はあくまで一例であり、一般化することはできないかもしれない。

ステップ4:今後について論じる

 最後に、「考察」セクションでは、研究の結果が将来の研究や実践にどのような影響を与えるかを検討しましょう。ここでは、研究分野や社会に対するより広い意味合いについても言及することを含みます。また、今回の研究で解決できなかった問題や残された課題についても言及するとよいです。


 例えば、「本研究では、◎◎療法が高齢者の認知機能を改善することを示した」という結果の今後について論じる文章は以下のようになります。

  • 本研究の結果は、◎◎療法が高齢者の認知機能に有益であることを示すものであり、高齢者の健康や福祉に貢献する可能性がある。高齢者は認知機能の低下によって日常生活や社会参加に困難を抱えることが多いが、◎◎療法はそのような高齢者の生活の質を向上させる手段となるかもしれない。また、◎◎療法は比較的安価で安全な方法であるため、高齢者にとって受け入れやすい介入であると考えられる。したがって、◎◎療法は高齢者の認知機能向上策として有望であると言える。
  • 一方で、本研究ではまだ解決できなかった問題や残された課題もある。例えば、◎◎療法の効果が個人差や気分や環境などに依存する可能性があることや、◎◎療法の効果が持続するかどうかや、他の認知機能向上策と比較した場合の効果が不明であることなどである。これらの問題や課題を解決するためには、より多くの要因を考慮したり、より長期的な追跡調査を行ったりする必要がある。また、◎◎療法の神経学的なメカニズムや心理学的なメカニズムも明らかにすることが望ましい。これらの課題に取り組むことで、◎◎療法の理論的根拠や実践的応用がさらに発展することが期待される。

ステップ5:本文は「アウトライン→テキスト」という順で書く

 「考察」セクションは、「アウトライン→テキスト」という順番で書くと、執筆プロセスをより効率的かつ効果的にし、明確で首尾一貫した内容にしやすくなります。アウトラインとは、「考察」セクションの大まかな構成や流れを示すものです。アウトラインを書くことで、「考察」セクションに何を書くべきか、どういう順序で書くべきかが明確になります。また、アウトラインを書くことで、研究論文の執筆に不可欠なパラグラフ・ライティングを実践しやすくなります。パラグラフ・ライティングとは、一つの段落に一つの主題を持ち、その主題に関連する内容を論理的に展開することです。面倒に感じるかもしれませんが、アウトラインを書いてからテキストを作成しましょう。


 例えば、「本研究では、◎◎療法が高齢者の認知機能を改善することを示した」という結果に対する「考察」セクションのアウトラインは以下のように書けるかもしれない。

・主な結果を説明する

 – ◎◎療法が高齢者の認知機能を改善することを示した

・結果を解釈する
 – 過去の研究との比較
 – 一致する研究

  – ○○ら(2019) や△△ら(2020) など
 – 異なる研究

  – ××ら(2018) や□□中村ら(2021) など
 – 当該領域における意味

  – ◎◎法が高齢者の認知能力に影響を与える可能性を示唆

・長所と限界を論じる

 – 長所

  – ◎◎療法の効果をMMSEで測定し、定量的に評価したこと
  – ◎◎療法の種類や頻度や期間などを統一し、対照群と比較したこと
 – 限界

  – ◎◎療法の効果が個人差や気分や環境などに依存する可能性あり

  – ◎◎療法の効果が持続するかどうか不明

  –他の認知機能向上策と比較した場合の効果が不明


・今後について論じる
 – 研究分野や社会に対する意味合い

  – ◎◎療法が高齢者の健康や福祉に貢献する可能性があること
  – ◎◎療法が高齢者にとって受け入れやすい介入であること
 – 解決できなかった問題や残された課題

  – より多くの要因を考慮する必要あり

  – より長期的な追跡調査を行ったりする必要あり

  – ◎◎療法の神経学的なメカニズムを明らかにする必要がある

  – 心理学的なメカニズムも明らかにする必要があること

Q&A

Q.IMRaD の「考察」セクションは何のために書くの?

 「考察」セクションは、研究結果を解釈し、それが意味するところを説明するために書きます。また、研究の長所や限界、今後の研究・実践のための提言を行うためにも書きます。

Q.「考察」セクションには何を書くべきですか?

 「考察」セクションは、まず研究の主な結果を要約し、次に過去の重要な知見との関連で、その意味を論じましょう。次に、研究の長所や限界に言及し、今後の展望を示すとよいです。

Q.「考察」セクションを書く際の注意点は?

 「考察」セクションは、今回の結果を基盤に議論するところなので、文献学的考察に終始しないようにしてください。また、「考察」セクションでは、単なる研究結果の再提示にならないようにしてください。その代わりに、結果を解釈・分析し、それが何を意味するのか、どのように当該分野に貢献するのかを論じましょう。

まとめ

 「考察」セクションでは、今回の研究で明らかになった主な知見を提示し、それを関連する過去の重要な知見との関連付けという文脈のなかで解釈し、強み、限界、将来の研究や実践に対する示唆を論じていきます。本記事が手がかりになって、強力な考察を展開することにつながればうれしいです。

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著者紹介

京極真、博士(作業療法学)、作業療法士。

Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程修了。2022年から2023年にかけて、全12回からなる連載『基礎から始める研究論文の書き方講座』(三輪書店)を執筆した。また『作業で創るエビデンス』(医学書院)の編著者のひとりであり、質的研究、理論研究、観察研究、尺度開発、統計を執筆した。その他、著書、研究論文多数あり。