IMRaDによる研究論文の「方法」セクションの書き方のヒント


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研究論文のIMRaD「方法」セクションの書き方のヒント

 研究論文は、あなたが行った研究の目的、方法、結果、考察をまとめて発表するものです。研究論文は学術界や社会にあなたの研究成果を伝える重要な手段ですが、その書き方は決して簡単ではありません。研究論文を書く際には、一般的にIMRaD(Introduction, Methods, Results, and Discussion)というフォーマットに従います。IMRaDは研究論文の構成要素である序論(Introduction)、方法(Methods)、結果(Results)、考察(Discussion)の頭文字を取ったものです。


 この記事では、IMRaDフォーマットの中でも特に重要な「方法」セクションについて詳しく解説します。「方法」セクションでは、あなたが実施した研究の手順やプロセスに関する詳細な情報を提供します。これによって、読者があなたの研究結果の妥当性と信頼性を評価できるようにします。また、「方法」セクションが充実していれば、他の研究者があなたの研究を再現することができます。これは科学的知識の発展に貢献することになります。


 しかし、「方法」セクションを書く際には注意しなければならない点があります。「方法」セクションでは、あなたが実際に行ったことだけを記述し、結果や考察は含めません。また、「方法」セクションでは、過去形で書くことが基本です。さらに、「方法」セクションでは、明確かつ正確かつ具体的に書くことが求められます。読者があなたの研究手順やプロセスを理解しやすくするためには、必要な情報を省略せず、曖昧な表現や専門用語を避けることが大切です。


 では、具体的にどのように「方法」セクションを書くのでしょうか?この記事では、初学者向けにIMRaDフォーマットの「方法」セクションの効果的な書き方のヒントをStep by Stepで説明します。これらのヒントを参考にして、あなたの研究論文の「方法」セクションを充実させましょう。


 なお、IMRaDを使った「方法」セクションの書き方を詳しく知りたい方は、私の以下の連載論文もお読みください。これらの論文では、IMRaDフォーマットの概要や効率的な執筆順序、さまざまな研究デザインに応じた「方法」セクションの書き方のコツなどを紹介しています。

  • 京極真:IMRaDと効率的な執筆順.作業療法ジャーナル 56(12), 1264-1268, 2022
  • 京極真:IMRaDを使った「方法」の書き方のコツ.作業療法ジャーナル 56(13), 1356-1361, 2022

 また、IMRaDを理解したい方は以下の関連記事をお読みください。

なぜ研究論文はIMRaD「方法」セクションが重要なのか?

 IMRaDフォーマットは、研究論文を書く際に最も一般的に使用されるフォーマットです。しかし、その中でも特に重要なセクションが「方法」セクションです。「方法」セクションは、あなたが行った研究の手順やプロセスに関する詳細な情報を開示することで、以下の3つの目的を果たします。

  • 研究結果の妥当性と信頼性を評価する
  • 研究結果の再現可能性を担保する
  • 研究結果を理解・解釈するための土台を提供する

 まず、「方法」セクションは、あなたが行った研究がどれだけ正確で信頼できるかを読者に示すことができます。あなたが使用した研究デザインや手法が適切であるかどうか、あなたが選んだ参加者やサンプルが代表的であるかどうか、あなたが収集したデータが正確であるかどうか、あなたが分析したデータが妥当であるかどうかなどについて、「方法」セクションで説明することで、読者はあなたの研究結果に対する信頼感や納得感を持つことができます。


 次に、「方法」セクションは、あなたの研究を再現することができるようにすることができます。再現性とは、同じ研究デザインや手法を用いて、同じ結果が得られることを指します。再現性は科学的知識の検証や発展に不可欠な要素です。あなたの研究が再現性を持つためには、「方法」セクションであなたが行ったことをできるだけ詳細に記述する必要があります。これによって、他の研究者があなたの研究を追試したり、比較したり、拡張したりすることができます。


 最後に、「方法」セクションは、あなたの研究結果を理解・解釈するための土台を提供します。「方法」セクションであなたが使用した研究デザインや手法によって、あなたの研究結果の意味や価値が変わってきます。例えば、ランダム化比較試験(RCT)は因果関係を検証する強力な研究デザインですが、実際の現場における応用性や一般化性には限界があります。一方、質的研究は深い理解や洞察を得ることができますが、客観性や信頼性には課題があります。このように、「方法」セクションであなたが選んだ研究デザインや手法の長所や短所を読者に示すことで、「結果」と「考察」のセクションであなたの研究結果を適切に理解・解釈する助けとなります。


 以上のように、「方法」セクションは研究論文の中でも重要なセクションです。しかし、その重要性にもかかわらず、「方法」セクションを書くことは難しいと感じる人も多いかもしれません。そこで、以下では、「方法」セクションを書く際の具体的なヒントを紹介します。これらのヒントを参考にして、あなたの研究論文の「方法」セクションを充実させましょう。

研究論文のIMRaD「方法」セクションの書き方のヒント

 実際に「方法」セクションを書く前に、いくつかの事前準備が必要です。まず、あなたが投稿する学術誌を決めてください。学術誌によって「方法」セクションの書き方やフォーマットに違いがあります。例えば、一部の学術誌では「方法」と「結果」を一つのセクションにまとめて記述することが求められます。また、一部の学術誌では「方法」と「参加者」を別々のセクションに分けて記述することが求められます。このように、学術誌ごとに「方法」セクションの書き方やフォーマットに違いがありますから、投稿する学術誌のガイドラインや過去の掲載論文をよく確認してください。


 次に、あなたの研究分野や研究デザインに応じた報告ガイドラインを入手してください。報告ガイドラインとは、研究論文の書き方や内容に関するチェックリストやフローチャートのことです。報告ガイドラインは、あなたが研究論文の「方法」セクションに必要な情報を漏れなく記述できるようにするための便利なツールです。例えば、ランダム化比較試験(RCT)を行った場合、CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials)という報告ガイドラインがあります。CONSORTは、RCTの「方法」セクションに記述すべき項目や順序を示してくれます。このように、報告ガイドラインは、「方法」セクションを書く際の指針となります。


 最後に、あなたが参考にした研究論文を確認してください。あなたが行った研究と同じか似たような研究デザインや手法を用いた研究論文があれば、その「方法」セクションを参考にしてください。その研究論文では、どのような情報をどのように記述しているかを確認しましょう。ただし、そのままコピーするのではなく、あなた自身の言葉で書くことが重要です。また、その研究論文が信頼できるものかどうかもチェックしましょう。その研究論文が査読されたものかどうか、その研究論文が引用されている回数はどれくらいかなどを確認しましょう。


 以上が、「方法」セクションを書く前の事前準備です。これらのステップを踏んで詳細な説明をすることで、「方法」セクションが完全でわかりやすいものになります。では、実際に「方法」セクションを書く際のヒントを見ていきましょう。以下では、「方法」セクションを書くための6つのステップを紹介します。

ステップ1:見出しを作成する

 「方法」セクションを書く際にはじめにやることは見出しを作成することです。見出しとは、「方法」セクションの中で扱う内容を示す小さなタイトルです。見出しは読者が研究内容を把握しやすくするだけでなく、あなた自身も文章の流れや構造を整理しやすくします。


 見出しは研究内容に応じて変わりますが、一般的には以下のようなものが含まれます。

  • 研究デザイン:あなたがどんな種類の研究(例:実験的研究、観察的研究、質的研究)を行ったか
  • 倫理的配慮:あなたが研究実施に関してどんな倫理的問題(例:参加者への説明と同意、個人情報保護)に配慮したか
  • 参加者:あなたが調査対象とした人々(例:サンプルサイズ、選定基準、除外基準)
  • データ収集:あなたがどのようにデータを集めたか(例:質問票、面接、実験)
  • データ分析:あなたがどのようにデータを分析したか(例:統計解析、コーディング)

 見出しは簡潔でわかりやすくすることが大切です。例えば、「研究デザイン」の見出しとしては、「研究デザイン」とそのまま書き、その具体的な内実として「ランダム化比較試験」や「質的研究」などの名前を書くとよいでしょう。

ステップ2:研究デザインや倫理的配慮を示す

 研究論文の「方法」セクションを書く次のステップは、研究デザインを明記することです。研究デザインとは、あなたがどんな種類の研究を行ったかを示すものです。研究デザインにはさまざまな種類がありますが、大きく分けると以下のようになります。

  • 実験的研究:ある変数(介入)を操作して、その効果(結果)を測定する研究。例えば、ランダム化比較試験(RCT)や準実験など。
  • 観察的研究:ある変数(暴露)と別の変数(結果)の関係を観察する研究。例えば、コホート研究やケースコントロール研究など。
  • 横断研究:ある時点で集められたデータを分析する研究。例えば、アンケート調査や検診データなど。
  • 質的研究:人々の経験や意見、感情などを深く掘り下げる研究。例えば、面接やフォーカスグループなど。
  • 混合研究:量的研究と質的研究を組み合わせる研究。例えば、アンケート調査に面接を加えるなど。

 あなたが選んだ研究デザインについて、「方法」セクションで説明します。その際には、以下の点に注意しましょう。

  • 研究デザインの種類や名称を明確に書く
  • 研究デザインを選んだ理由や目的を書く
  • 研究デザインに関する先行研究や文献を引用する

 例えば、「研究デザイン」の見出しのもとでは、以下のように書くことができるかもしれません。

  • 本研究では、ランダム化比較試験(RCT)という実験的研究デザインを採用した。RCTとは、参加者を無作為に介入群と対照群に割り付けて、介入の効果を測定する研究の一つである[1]。本研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するリハビリテーションの有効性を検証することを目的とした。有効性の評価にはRCTが最も信頼性の高い研究デザインとされている[2]。本研究は、倫理委員会の承認を得た上で実施された。

 次に、倫理的配慮についても「方法」セクションで示す必要があります。倫理的配慮とは、あなたが研究実施に関してどんな倫理的問題に配慮したかを示すものです。倫理的配慮にはさまざまな種類がありますが、一般的には以下のようなものが含まれます。

  • 倫理委員会の承認:あなたの研究が倫理的に適切であることを確認するために、倫理委員会から承認を得たことを示す
  • 参加者への説明と同意:あなたが研究の目的や手順、リスクや利益などを参加者に十分に説明し、自由意思で参加することに同意したことを示す
  • 参加の意思決定:あなたが参加者の意思決定能力や自主性を尊重し、参加や中止の権利を保障したことを示す
  • 個人情報保護:あなたが参加者の個人情報やプライバシーを保護し、データの匿名化や暗号化などの措置を講じたことを示す
  • データ管理:あなたがデータの収集や保存、共有や廃棄などに関してどんな規則や基準に従ったかを示す

 倫理的配慮についても、「方法」セクションで説明します。その際には、以下の点に注意しましょう。

  • 倫理的配慮の種類や内容を明確に書く
  • 倫理的配慮を行った理由や目的を書く
  • 倫理的配慮に関する先行研究や文献、ガイドラインなどを引用する

 例えば、「倫理的配慮」の見出しのもとでは、以下のように書くことができるでしょう。

  • 本研究は、XX大学医学部倫理委員会から承認を得た(承認番号:YY-2020-ZZ)。倫理委員会は、本研究が国際的な倫理基準(ヘルシンキ宣言)や国内法令(臨床試験法)に準拠していることを確認した。本研究は、倫理委員会から定期的なモニタリングや監査を受けた。

ステップ3:参加者について説明する

 「方法」セクションで研究の参加者を説明することが重要です。参加者とは、あなたが調査対象とした人々のことです。参加者について説明することで、あなたの研究の対象性や一般化性を示すことができます。


 参加者について説明する際には、以下のような情報を含めることが望ましいです。

  • サンプルサイズ:あなたが調査した人数やグループ数
  • サンプリング法:あなたが参加者をどのように選んだか(例:無作為抽出、便宜抽出、意図的抽出など)
  • 選定基準:あなたが参加者を選ぶ際に用いた条件(例:年齢、性別、病歴など)
  • 除外基準:あなたが参加者を除外したり辞退したりした理由(例:同意しなかった、欠席した、合併症があったなど)
  • 人口統計学的情報:あなたが調査した人々の特徴(例:年齢層、性別比、教育水準、職業など)

 参加者について説明する際には、以下の点に注意しましょう。

  • 参加者の情報は客観的かつ具体的に書く
  • 参加者の情報は表やグラフなどで視覚的に示すこともできる
  • 参加者の情報は研究目的や仮説と関連付けて書く

ステップ4:データ収集について説明する

 「方法」セクションでは、データ収集のやり方についても記述します。データ収集とは、あなたがどのようにデータを集めたかを示すものです。データ収集にはさまざまな方法がありますが、大きく分けると以下のようになります。

  • 質問票:あらかじめ用意した質問に対して、参加者が回答する方法。例えば、尺度や尺度項目、質問形式、回答形式などを記述する。
  • 面接:参加者と直接対話して、質問に答えてもらう方法。例えば、面接の種類(構造化面接、半構造化面接、非構造化面接)、面接の手順、面接の内容などを記述する。
  • 実験:参加者にある操作や刺激を与えて、その反応や効果を観察する方法。例えば、実験の目的、実験の手順、実験に使用した機器や材料などを記述する。

 データ収集について説明する際には、以下の点に注意しましょう。

  • データ収集の方法や名称を明確に書く
  • データ収集の方法を選んだ理由や目的を書く
  • データ収集の方法に関する先行研究や文献を引用する
  • データ収集のプロセスや内容を詳細に書く
  • データ収集の信頼性や妥当性を示す

ステップ5:データ分析について説明する

 「方法」セクションでは、データ分析のやり方を説明します。データ分析とは、あなたが集めたデータをどのように処理して、結果や意味を導き出したかを示すものです。データ分析にはさまざまな方法がありますが、大きく分けると以下のようになります。

  • 量的データ分析:数値や統計を用いてデータを分析する方法。例えば、平均値や標準偏差、相関係数や回帰分析などを用いる。
  • 質的データ分析:言葉やテキストを用いてデータを分析する方法。例えば、コーディングやテーマ分析、内容分析などを用いる。

 データ分析について説明する際には、以下の点に注意しましょう。

  • データ分析の方法や名称を明確に書く
  • データ分析の方法を選んだ理由や目的を書く
  • データ分析の方法に関する先行研究や文献を引用する
  • データ分析のプロセスや内容を詳細に書く
  • データ分析の信頼性や妥当性を示す

ステップ6:本文は「アウトライン→テキスト」という順で書く

 「序論」セクションと同様に「方法」セクションもアウトラインを作ってからテキストを書くことを推奨します。アウトラインとは、主なポイントを箇条書きや番号付けなどで整理したものです。アウトラインを作ることで、研究デザインと方法をより明確にすることができます。


 アウトラインを作るメリットは以下の通りです。

  • 「方法」セクションがよく整理され、理解しやすくなる
  • 「方法」セクションの文章の流れや構造がわかりやすくなる
  • 「方法」セクションの見出しや順序が決まりやすくなる
  • 「方法」セクションの重複や欠落が防げる
  • 「方法」セクションの文字数やページ数が把握しやすくなる
  • 「方法」セクションの書き始めや書き進めが楽になる
  • 「方法」セクションの修正や改善がしやすくなる

 アウトラインを作る方法はさまざまですが、一般的には以下のような手順で行います。

  • 「方法」セクションで扱う内容をリストアップする
  • リストアップした内容を見出しに分類する
  • 見出しに対応する詳細な内容を追加する
  • 見出しと内容を階層化する
  • 見出しと内容の順序や関係性を調整する

 アウトラインを作ったら、それに沿ってテキストを書きます。テキストを書く際には、以下の点に注意しましょう。

  • アウトラインの見出しとサブポイントを文章に展開する
  • アウトラインの番号や記号は文章に反映させない
  • アウトラインの順序や関係性を文章でつなげる
  • アウトラインにない内容は文章を追加する

Q&A

Q.何のために研究論文のIMRaD「方法」セクションを書くの?

 IMRaD「方法」セクションは、研究デザイン、参加者、データ収集、データ分析を説明するために書きます。研究の透明性を高めて、他の研究者が研究の質を吟味したり、再現したりできるにする必要があります。

Q.「方法」セクションには何を書けばよいの?

 以下の内容を含めるようにしましょう。

  • 研究デザイン(例:ランダム化比較試験、グラウンデッド・セオリー・アプローチなど)
  • 参加者(例:サンプリング法、選定基準、除外基準、サンプルサイズなど)
  • データ収集(例:質問票、面接など)
  • データ分析(例:使用した量的データ分析や質的データ分析、使用したソフトウェアなど)

Q.「方法」セクションを書く際の注意点は?

 大きくは2つあります。過去に実施したことなので、基本的には過去形で書いてください。先行研究に言及する場合などは例外です。また、得られた結果については記載しないでください。これは「結果」セクションに書きます。

まとめ

 IMRaDの「方法」セクションは、あなたの研究を理解・評価するために必要な情報を開示する、結果の再現可能性を担保する、ために研究論文に不可欠な要素です。上述のヒントに従い、方法について明確で透明性のある説明をすることで、あなたの研究の信頼性を確立し、読者があなたの研究を理解し、再現するのに必要な情報を提供することができるでしょう。IMRaDの「方法」セクションが充実していれば、読者に研究結果を理解・解釈するための土台を提供し、「結果」と「考察」のセクションの舞台を整えることができるのです。

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著者紹介

京極真、博士(作業療法学)、作業療法士。

Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:保健科学研究科長、人間科学部長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程修了。2022年から2023年にかけて、全12回からなる連載『基礎から始める研究論文の書き方講座』(三輪書店)を執筆した。また『作業で創るエビデンス』(医学書院)の編著者のひとりであり、質的研究、理論研究、観察研究、尺度開発、統計を執筆した。その他、著書、研究論文多数あり。